雪降る中、美しい月を見よう、と愛しい娘を連れて、わたしは遠い遠い文明が忘れ果てた、打ち捨てられ廃墟となった教会に足を運んだ。

わたしがまだ、幻獣達を作り出す前からそこに存在する、眩暈がするほどの古い建物。
陸地の形は変わり、人間の文明も生まれては消え、破壊と誕生を繰り返すその営みを無視するかのように存在する、静かな空間。

神の子が生まれたとされていたその日。
時折わたしはこの場所に立つ。
そして、生命について考える。
わたしという命。そして生み出した幻獣という命。
そして、幻獣を呼び出す、人間という命。
その深い絆について。
無垢な存在である幻獣達を呼び出すことが出来る人間達は、何かをよりどころとして生きている。そのひとつが、この場所で捧げていた祈りの先にあるものだ。そして、幻獣達は人間達に信じられ、呼び出されることをよりどころとしている。
そのことについて、わたしはいつも考え、この地に足を運ぶ。

ここは、神に近い場所なのだ、とだけ告げると、少しだけ考える素振りをみせて彼女はわたしを見る。

「神さまっていうものがいるなら、お願いしたいことがあるの」

そう言う彼女の視線は、真剣だ。

「おかしいかな、バハムートも神さまなのにね」

わたしは首を振る。
大きな力をもち、幻獣という生命を生み出すことが出来るわたしは、人間達が「神」と呼ぶものとは遠い、と思う。
わたしは自分が万能ではないことを知り、この少女もそれを知る。
けれども、人間が呼ぶ「神」というものは、万能であれと強く願われているに違いない。
だから、彼女の言う「神」はわたしではない。
わたしは自分が、ただの、この少女を愛するだけの一頭の竜なのだということを知っている。

「何を願うのだ、お前は」

その問いに彼女ははかなげに微笑む。
瓦礫が崩れ落ちた天井からは、ちらちらと雪が舞い落ちる。
わたしの力の加護をうけた彼女は、必要以上には寒さを感じることなく、それでも冬の冷気を肌にうけている。

「世界中の人たちが幸せになるために、何が出来るのかをね。
みんなに教えてあげて欲しいと思うの」

何を彼女が言うのか、わたしにはよくわからない。
人間達は時折「世界中が平和でありますように」という曖昧な願いを祈る。しかし、彼女の言ったその言葉は、どうやらそれとは違うようだ。

「神様の力で、みんなを幸せにするんじゃなくて。
自分達の力で、みんなが幸せになったらいいじゃない?」

そう言う彼女はあどけない笑顔を見せてから少し恥ずかしそうに

「変かなあ?だってね、いっぱいいいっぱい考えたけど、思いつかなくて」

わたしは彼女に腕を伸ばし、抱き上げる。

「バハムート?」

「神というものは答えを簡単には与えない」

「そうだよね・・・」

抱き上げられることに何も抵抗を見せずに、愛しい娘はわたしの腕の中にすっぽりと収まり、小さく溜息をついてわたしを見つめる。
その幼さが残る緑の瞳。それを悲しみに曇らせることがないように、わたしがいつでも祈り続けていることを彼女は知らないに違いない。

「何が出来るのかは、教えてくれないだろうが、何が出来るのかを探すきっかけを与えてくれることだろう。もしも、神というものがいるならば」

彼女はしばしわたしの顔を見て、それから小さく頷いた。

「祈るがいい、ここは、神に近い所とされていた教会だ」

「うん」

腕の中の命は暖かく、わたしに「生きている」ことを知らせる体温と鼓動を伝える。
少なくとも、お前がいれば。
それで、幻獣達は、幸せなのだ。
そう言いかけて、わたしは黙り込む。

それは間違いない。けれど。

何よりも、誰よりも。

わたしが、お前によって、しあわせにされているのだ。

腕の中の少女は瞳を閉じて、祈る。

彼女の言葉の「みんな」が、人間だけでもなく、ましてや幻獣だけでもないことを知るわたしは、その愛しさに空を仰ぎ。
降り注ぐ雪を見つめるのだった。

 









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