かなわぬ恋をひとり隠そう
そう思うたびにわたしの中で同時に響く声がある
大きな罪をひとり背負おう
それは、同じ意味なのだから

思えばそれは当然の道理なのかもしれなかった
わたしは人であって人にあらず
幻獣であって幻獣にあらず
その危うい存在であるわたしがあの人に堕ちてしまうことは

わたしは幻獣達があの人を愛するのと同じ形であの人を愛して
そして人が人を愛するのと同じ形であの人を愛して
それはなんという幸せなのだろうか。
何一つ同じではない二つの感情を持つことでわたしは、
あの人に対してわたしだけの愛の形を得ることが出来るのだ
たとえそれが、わたしを生んだ創造神への背徳であっても

半永久的なわたしの生命は、人という脆い者達の命の濁流の中
わたしとして生きていく権利を得た、白く輝く魂を取り込んでゆく
それがわたしという生命の約束事
人として生きた新たな記憶がわたしの中に宿り
人として生きた古い記憶がまた忘却の時に近づく
わたしは人であって人ではない存在ゆえに
あまりにも優れた忘却という名の機能を持ち得る
それは思い出というものと同時に、感情を
何もかも新しい記憶の到来によって順送りに流して消えてゆく
わたしはそれを思い、時折悲しみにおののく
この悲しみすら、あの人がもたらしたものなのだろう

わたしが、ああ、ただの幻獣であれば
あの人に幻獣としての変わらぬ愛情を誓えばそれだけで良いのに
わたしが、ああ、ただの人であれば
あの人に人としての刹那を費やすだけの愛情を誓えば良いのに

そのどちらも出来ず、ただわたしは
いつの日かやってくる、新たな魂との融合の時を恐れる
この先どれだけの魂がわたしと融合するのだろう
どれほどの時を経た頃にこの感情は消されてしまうのだろう
あの人を人として愛しているわたしはわたしであってわたしではない
わたしの一部で人の感情を未だ持ちつづけている、若き魂なのだろう
いつの日か、わたしが持つ忘却の機能がこの感情を流してゆく
愛しい者を愛しいと思わなくなるその時が来るのではないかという
その恐れと悲しみにわたしはただただ慄き打ち震える
その時が来るまで、それは消して消えない畏れとなり
自らの罪をその畏れによって償い続けるのだろう

かなわぬ恋をひとり隠そう
大きな罪をひとり背負おう
償いが終わる時を望みつつ、償いが終わる時に怯えながら
すべてが浄化されるのは、あの人への愛を失う時なのだから





Fin


モドル





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