はじめまして


あまりにも長い長い時を経て。

その長い生の中で、心というものを交えた生物は、みな、消えてゆく。

わたしの前から姿を消してゆく、という意味であれば、どの生物もまったく変わりはない。

この星に存在する、美しい歌を歌い続ける生命体よ。

彼方に見える美しい星に生き続ける、愚かで、しかしそれ故に精一杯蠢く生命体よ。

それらの者達はわたしの興味をわずかに引くけれど、その生命の形のあまりの差異に、理解しあう

ことが出来ない、一生涯まみえない者達だ。



唯一わたしが生み出した、わたしの一部である幻獣達。

半永久的な命を約束されながらも、彼らとわたしは心を決して交えることは出来ない。

彼らという生命を創り出した存在はわたしで。

わたしという存在は彼らにとっては脅威で。

それゆえに交わることができない、目に見えない畏怖によって遮られる愛しいわたしの一部。



更にわたしに近しいわたしの両翼は、わたしの感情と共にこの地にあり、

わたしの感情と共にわたしの体となり、

わたしの感情と共にわたしの傍にひかえる。

それはわたしであってわたしではないもの。けれども間違いなくわたしであるもの。

決してそれらはわたしの心を動かすこともなく、この生命が果てるまで共にいるだけの存在。



もはやわたしの感情を大きく揺さぶる生き物はこの世界にはない。

ただ、わたしはわたしが生み出した幻獣達が幸せであることを、わたしをすら生み出した、誰もが知

らない巨大な力をもつ、誰もが知っている何かに祈るだけだった。

そして、いつの日か、その何かに許されたとき、わたしはこの世界から音もなく消えるのだろうと、信

じていた。



そのわたしの目の前に。


「バハムート、ね、わたし、またここに来てもいいかなあ?」


わたしを召喚出来る力、稀有な才能をもつ少女が現れたあの日。


「バハムートが、寂しいかと思って」


その音楽的な声が、わたしの耳をくすぐり、わたしに向けて聞いたことがない単語を紡ぎだす。

 


寂しいということは。

一体、どういうことなのだろうか。

 




「幻獣はみんな幻界にいるのに、バハムートだけ一人でここにいて、誰とも会えないんでしょ?」


そして、寂しいわたしのために、何故この少女は、また訪れようとしているのだろうか。

 



あまりにも長い生を経て、ようやく今。

未だにわたしが手に入れることが出来ない「何か」が、わたしの元に降り立った。

ああ、わたしはわかりかけている。

気の遠くなる長い時を経て。

わたしの中で眠っていた、わたしではない何かが目覚めようとしている。

それは。

あまりにも温かくて。

あまりにもわたしには似つかわしくないもの。

そうだ、聞かなければいけない。

一体、寂しいということは、どういうことなのだろうか?

きっとその答えは、わたしをすら生み出した、誰もが知らない巨大な力をもつ、誰もが知っている

何かではなくて。

あの気持ちがあまりにも美しい、青き星の少女が知っているのだろう。



そのことに気付いて、わたしは。



わたしを生み出した何かに、長い生の中生まれて初めての感謝の祈りを、捧げた。



Fin



モドル



女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理