第一章-3-

「タイダリアサン」
名前を呼ぶその声はか細い。
ごつごつした岩で囲まれた洞窟の奥に、すらりとした細身の美女が素足で歩いていた。
人間が人間を見る目で見れば、彼女は顔色が悪く、健康的とはお世辞にも言えない。
骨の形がわかるほどではないけれど手足も細く、長く伸ばしたまっすぐな白銀の髪は、剥き出しの肩から胸元まで、まるで装飾品のように流れている。陰気で暗い洞窟の中でも、ほんのかすかに入口付近から差し込む光で、その髪は銀髪にも見える。
「なんだ」
洞窟の奥で座り込み、壁にもたれかかっている若い男がいた。わずかな灯りを頼りに古ぼけた書物を読んでいた彼は、なげやりな声音で返事をした。
「あの方は?」
「お出かけ中だ」
「そう・・・」
質問に答えたことで会話は終了、とばかりに、彼はまた書物に目を落とした。
こちらは完璧な白髪で切れ長の赤い瞳を持つ、冷たい印象を与える風貌だ。右目にはモノクルをつけている。
書物を読む、という意味がよくわからない彼女は、男−タイダリアサン−に恐る恐る聞いた。
「人間のものなんて、何が楽しいか、わたしにはわから・・・」
「うるさい」
「・・・」
冷たく言葉を遮られて、彼女はそっと離れた所に腰をおろし、膝を抱えた。
書物を読んでいるタイダリアサンの方は、それを気にする風もなく没頭していた。
彼は読書家というものではなかった。そもそも人間が書き表す文字というものをつい先日まで知らなかったからだ。
彼には、人間の知識がそうそう必要があるとも思えなかった。
あの深い月の地下にある、罪人として繋がれていた渓谷から解放されるまでは。
月に済むことは不可能だった。
その地には、彼らが恐れるあの竜の神がいたからだ。
そして、もっとも彼らが近く身を寄せられるここ、青き星に降りたわけだが、その文明レベルの発達に彼らは目を見張った。
しかも、驚くべきことに、よくよく調べれば実はもっと遠い過去に、この星は今よりも高度な文明を得たことがあったという事実がわかったのだ。
人間というものを大層甘く見ていたタイダリアサンは驚きと妬みと様様な感情がないまぜになったけれど、とりあえず今は、自分達が知ることが出来ない人間達の能力や、今はない過去の文明についてを知ろうと書物を読んでいる。
それは単純な知識欲ではない。
この先自分達が制圧であろう人間達の使い方を知るためだ。
(それにしても、こいつはよく出来ている)
右目に装着しているモノクルのことを思い出し、タイダリアサンはニ、三度まばたきをした。
遠い過去の戦いで負傷し、視力が下がった右目を補助してくれるもの。
人間の姿でいる間は、遠くにある目で見えないものは変わらず「気」で感じることが出来ても、近くにあるこういった書物などを読むことは難儀であった。片目がつぶれたとしても彼にとってはなんということでもないのだが、こういった細かいものを見つづける作業では「少しだけ視力が残っている」状態が最も具合が悪い。作業による疲れに苛立って、書物を投げ出そうとしたときに、この便利なものを知った。
なかなか人間はいいものを作る。
己に力がない者達は、道具を使って新たな道具を作り出して、自分達が不可能なことを可能にするというわけか。
「もうすぐ夜になるわ」
「お前はもう寝ろ」
「子供じゃないわ。あなたもあの方も、すぐわたしを邪険にするのね」
「お前は弱い。いざというときにくたばられると面倒だ。俺はお前なぞどうでもいいが・・・」
「あなた達に比べれば弱いというだけでしょう・・・」
「うるさい。愚痴を言ったら殴るぞ、白竜」
「・・・」
彼女は−白竜と呼ばれたが−黙り込んだ。
白竜とは種族の名だ。彼女自身の名ではない。
けれど、タイダリアサン達は彼女をその名では呼ばない。
頭一つ飛びぬけた力も何もない者が、個体を認識して名を授かろうと思うことが思い上がりだと彼らは思っている。
それは彼女にはとても不本意な評価だし、彼女は白竜の種族の中ではそれでも力がある者だったから、始めは嫌でしょうがなかった。が、異議を唱えればねじ伏せるようにタイダリアサンは本当に暴力を振るう。どんなに種族の中で力があっても、タイダリアサンからすれば「所詮白竜」といったところで、歴然とした力の差があるのだ。彼女は従順に彼らに従い、ただそうっと共にいるしかなかった。
本人が言うように、彼女は決して体が弱いわけではない。タイダリアサン達が強い個体すぎるのだ。
「ヴィズル様は、いつお戻りになるのかしら」
「その名を言うな。もう一度言えば、その細い首を締めるぞ」
「・・・はい」
彼女は黙った。それから、岩の上にごろりと横になり、岩肌に「痛い」と感じて顔をしかめた。
人間の姿でいれば、いる場所には困らないからありがたい。
けれど、本当はリラックスするには竜の形に戻りたいのだ。
「面倒くさい」
そう呟いて立ち上がると、隅においてある毛布をひろげてその上にもう一度横たわった。
人間の姿でいつつ竜の鱗で体が覆われれば問題はないのに。
姿を変える芸当が出来るならばそれくらいが出来てもよさそうなのだが、人間の形を保つ際に「最も自分に合った楽な形」というものがある。それが一番自然で、とりたてて力を使わないで済むものなのだ。素直にそれに従えば、彼女は驚くほど美しく、かつ、病的な女性になる。そしてまた、タイダリアサンは、冷たいけれど聡明そうな風貌になる。ただそれだけのことなのだ。
(いつお戻りになるのかしら・・・)
彼女は薄暗い洞窟の奥で瞳を閉じて、ヴィズル−ダークバハムート−の帰りを待ちわびていた。

さて、その彼女が待ちわびている男は、自分と同じ血が流れた兄弟であるサズ−バハムート−と久方ぶりの対面を済ませ、そのあまりの変わりように驚いていた。
あの、誰に対しても関心がなかったサズが。
竜の神になぞなる気もなく、同胞の争いにも興味がなく、竜の神バハムートにすらなる気がなかった男が、なんということやら。そう言いたげに、リディアを守るようにその腕に抱く兄弟を見て、彼はにやりと顔を歪めた。
「これはこれは、おもしろい」
「何がだ」
「お前に、そんな感情があるとは。お前が作り出した幻獣とやらすら、お前は無責任に放置していたというのに、その娘には随分とご執心のようではないか」
心底嫌そうな表情で、しかし、静かにバハムートは言葉を返した。
「執心だと?言葉の意味を間違えているのではないか、お前は」
「そんな返事がくるあたりがまた・・・ははは、笑わせてくれる!」
大袈裟にそう言って、ヴィズルと呼ばれた男は笑った。
「同胞とはまみえることが出来なかった男が、お前を神と崇めたて、信じる幻獣達を都合よく作っておままごとでもしているつもりか。よくもバハムートの名を名乗ることが出来るものだ」
「ままごとをしているつもりはない。都合よく生き物を生み出したつもりもない。神と崇めろと強要したこともない。そして、その名を自分の名と認めたことなぞ、ない」
「言葉ではどうとでも言えるものだ」
「そもそも復讐とはどういうことだ。お前にそんなことを言われる覚えはない」
「自分があくまでも清廉潔白だと思っているわけか?お偉い幻獣神様は」
「ヴィズル」
「俺は知っているぞ。お前が同胞すべてを裏切りつつバハムートの名を手に入れたことを」
幻獣達はその言葉で一斉にバハムートへ視線を向ける。
バハムートの腕に抱かれたリディアも体を強張らせ、不安そうに、自分を包んでいる幻獣神を見上げた。
いつも彼女にだけは優しい幻獣達の神は、険しい表情を作っていた。しかし、リディアを抱く腕には、強すぎない弱すぎない力が込められており、彼が、いつでも腕の中のリディアを気遣っていることだけは伝わる。
「どういう意味かわかり兼ねる」
「不徳だ、サズよ」
わざとらしく男は首を横にふった。それから、フードを被りなおし、その風貌を隠した。
「これから、楽しくなりそうだ」
「ヴィズルよ。お前が何をしたいのかはわからぬし、何を誤解しているのかもわからない。しかし、お前が数多くの同胞を死なせる原因を作ったことは間違いがないし、自ら同胞を殺めることをいとわなかったことは言い訳が出来ない罪だ。そして、お前は意味のない殺戮を好む。お前が封印されたことは当然のことだと私は思っている」
「・・・勘違いするなよ、バハムート」
男は明らかに苛立ちを含んだ声音で反論をした。
「俺が封印されたことに腹を立てているだなんて、馬鹿げたことを思っているのか?それを言えば、お前とて同胞を死なせる原因を作った張本人だろうが。お前も罪を償うべきではないのか?」
「今となっては」
バハムートはそこで言葉を切った。
彼が言葉半ばで息を止める時。
腕の中にいるリディアは、バハムートの確かな呼吸を、彼の体から与えられる振動で感じ取った。
癖といわれるような癖がないバハムートではあったけれど、それは誰もがそれをそうだと知らないからだ。
リディアだけは、知っている。
彼がこうやって言葉を切るときは、相手を傷つける時、相手に覚悟を迫る時なのだ。
「お前がバハムートの名を得られないことは、当然だったのだと思える。あの頃は、そうは思わなかったが。私は誰がバハムートになろうがそのようなことに関心はなかった。なりたい者がなれば、そうであることに努力をするのだろうと思っていたからだ。だが、それは大きな勘違いだったのだな。私は自分がバハムートとしてふさわしいと思ったことなぞ、ただの一度もない。一度もないが、お前にその名を与えることは、未来永劫ないだろう」
「ほざけ!」
「きゃ!」
男の一喝で、リディアは身をすくませた。
周囲にいた幻獣達もどよめき、一歩二歩後退をする。
まるで空間が細かく揺れ動いたかのように、痺れるような感覚。男から発せられる異様な気を感じて誰もが男を凝視していた。
だが、バハムートだけは動じた様子はない。腕の中にいるリディアを抱きしめる腕にわずかな力がこもった。
「この名を守る気は毛頭ない。だが、お前に渡す気もなければ、お前はこの先どうあがこうと、この名を手にいれることは出来ないだろう。私を憎んでも呪っても」
「お前は何もかもわかっていない、サズ・・・いや、バハムートよ!」
男は声高に叫んだ。
「それは、お前を憎もうと呪おうとかまわないと言うことだろう?愚かなバハムート。俺がお前を憎んで呪うということがどういうことなのかわかっていないようだな?」
「ヴィズ・・・」
「ダークバハムートだ」
男はバハムートが呼ぼうとした名を遮った。
「お前のせいで死んでいった同胞が、俺をそう呼んだ。バハムートにふさわしい力を持ちながら、バハムートではあり得ない生き物、とな。悪くない。まったく悪くないな!」
「ヴィズル」
「楽しみが増えた。今日のところは、その虫ケラ達も許してやろう」
「なっ・・・」
「虫ケラだと!?」
自らをダークバハムートと名乗った男は、リヴァイアサンやアスラ達を指さし、大きく笑った。
先ほど数歩後退した幻獣達も、その挑発にいきり立ったように皆身を乗り出して声を荒げたが、バハムートが軽く手をあげれば、そのまま大人しく口を引き結ぶ。
「楽しませてもらえそうだ。俺たちが与えられている時間は、長い」
「・・・」
「そうだろう?」
にやりとフードの下で不吉な笑みを見せるダークバハムート。
「近いうちに、またお前の顔でも拝みに来る。逃げるなよ」
そう言うと、一同の視線が集中する中、ダークバハムートは先ほどバハムートが現れたように、突然黒い一本の細い線になり、その場からあっという間に消えてしまった。
あまりのあっけない一瞬に、幻獣達はみなぽかんとしている。
自分達幻獣も、召喚士に呼ばれた時は「幻獣の道」を使って一瞬で空間転移を行うが、それ以上にダークバハムートが消える速度は速かった。
「そうだ・・・ギーブ!」
リディアははっと気付いて、自分と一緒にいたボムの名を呼ぶ。バハムートが手を緩めると、彼女はするりと当たり前のようにそこから抜けて、幻獣達を見回した。
「ギーブ、どこ?大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ〜」
多くの幻獣達の後ろから、幼いボムは小さく答えた。フリージアがリディアに向かって飛んでこようとしたが、リディアの背後にいるバハムートに恐れをなしているのか、所在なくその場を上下するばかりだ。
「よかった〜!痛かった?」
「うん。でも、リディアも」
「わたしは大丈夫よ。ちょっと怖かったけど・・・アスラ?」
人間の形のままでいるアスラがリディアにゆっくり歩み寄って、腕を伸ばしてきた。
「怖かったでしょう、リディア」
「うん、でも、大丈夫」
アスラはしっかりとリディアの体を抱きしめて、柔らかな緑の髪を何度も撫でる。
リディアはアスラを安心させるように背に手を回して、軽く力を入れた。
「だって、バハムートが助けてくれるって信じていたから」
「おお、そうでしょうとも」
「幻獣神様」
二人のやり取りを横目で見つつ、リヴァイアサンはバハムートに呼びかけた。
「今の男は、一体・・・」
「・・・うむ・・・どこまで話せばいいことなのか、今少し考えさせてくれ」
そのバハムートの答えに幻獣達は軽くざわめいた。
滅多に幻獣界に来ないバハムートではあるが、彼が何かに対して悩んで回答を遅らせることなぞ、ついぞないことだし、彼の口ぶりでは「隠しておきたいこと」があるように思える。それは、幻獣達からすれば、不安な気持ちを煽る言葉だ。
バハムートもそれに気付いたようで、言葉を変えた。
「お前たちが生まれる、更に昔からの・・・連れ合いだ。あまりに昔のことで、うまく順序立てて説明するには・・・時間が欲しいという意味だ」
連れ合い。
彼の口からそのような単語が出るとは思っていなかったリヴァイアサンやラムウは眉根を寄せた。
「バハムート」
「なんだ」
リディアはアスラからそっと離れ、そして、他の誰もが思っていたけれど、恐ろしくて決して口に出せなかった質問を素直にした。
「あの人、バハムートの、兄弟?」
聞きづらいことをすっぱり言うなんて、さすがリディア、と幻獣達は誰もが思っていたに違いない。
当然その質問があるに決まっているとわかっていたバハムートは、戸惑いもなく返答した。
「そうだ。あれとは、ほぼ一緒に、生まれたのだ」
「・・・やっぱりそうなの。っていうことは、えーっと・・・パロムとポロムみたいな?」
「人間界では、双子というのだろうがな」
「そうなの」
バハムートはリディアに手を伸ばして、彼女の柔らかい頬にそっと手のひらを押し当てた。彼がそうするときは、いつもリディアは瞳を閉じる。幻獣達の目の前だろうがそれは変わらない。
ほんの数秒彼女の頬に触れただけで、バハムートは手を引いた。
「リヴァイアサン、リディアを頼む。私がいない間に異変が起きたときは、くれぐれも無理をしないように」
「はい。わかりました・・・幻獣神様は」
「すぐ、戻る」
そう答えると同時に、バハムートはダームバハムートと同じく、黒い細い線に吸い込まれるように消え、転移空間を閉じた。
リディアは彼が触れていた自分の頬を、そっと自分の指で触れた。
いつもは感じる彼がリディアを慈しむ気持ち以外の何かが、彼の手から伝わったように思えて、いいようのない不安が彼女の胸の中に広がる。その様子に気付いたアスラは、リディアに手を差し伸べた。
「こちらにおいでなさい。珍客に邪魔をされたけれど、みな、リディアが来るのを楽しみにしていたのですから。あやつに傷つけられたところも、見なければ。館へ行きましょう」
「あ、うん!行く行く」
「皆、解散だ!幻獣神様のこと、何かお考えがあるのだろう。はやる心は抑えて、平常に戻るが良い!」
リヴァイアサンが幻獣達に一声かけると、皆聞き分けよく、混乱もなく解散をした。
それは、幻獣神は自分達に対して誠実で、納得がいかないことをそのままにするはずはない、という信頼の賜物だ。
リディアはアスラに連れられ、幻獣王の館へと向かった。
しかし、一番心がざわついていたのはリディアなのかもしれない。

ダークバハムートは、そのまま自分が普段根城にしている場所に戻ろうと思ったが、突然の煩わしさを感じて、時々一人で訪れる小さな川辺に姿を現した。
湿った土とその上を覆うように生えている草の上に腰を下ろす。
きらきらと揺れる水面を、眉根を寄せて忌々しそうに見つめる。
美しいと感じるような感受性が、彼にはまったくないわけではない。しかし、昼の眩しい陽射しそのものを彼は好まない。
生き物はどれもこれも馬鹿だと思う。
この、嫌になるほど毎日毎日飽きずに照りつける空の光がなければどれもこれも生きることが出来ない。
それを彼は知っていて、知っているからこそ、そんな情けない生き物は間抜けで、無意味だと思う。もちろん、自分もそのひとつなのだろうと理解していたが。
何かがなければ生きてはいけないなぞ、何かによって生かされているなぞ、本当に情けなくて無様だ。
だが、本来のバハムートは違う。
幻獣神として、幻獣なんていうほかの生物を作り出す能力を持ち、この宇宙のどこにでも行こうと思えば行けて、もしかしたら、あの光がなくなってもあの生き物は生き続けるのかもしれない。それほどの力を持つはずの竜だった。
なのに、バハムートは、自らがそれほどの力を持つことを拒んだ。
手に入れるはずの力を拒絶して、自分が自分以外の何者になることも許さず、己の力の上限を己で決めて、バハムートであるための力を切り捨てた。そうでもしなければ、あのように人間の形を保っていられるはずがない。圧縮された強いエネルギーがあれほどの体積で収まるわけがないのだ。
しかし、どれだけ切り捨てたとしても、有り余る力は見てのとおりだ。
召喚士からの呼びかけがなければ隔てることも出来ない、幻獣の道を作ることが出来ない、あの月ととても遠い幻獣界。
それを、バハムートはいともたやすく好きに移動をする。
ダークバハムートは、タイダリアサンと白竜と共に、月の地下渓谷に封印されていた。その封印を解かれた直後は力の制御も上手く出来ず、この青き星に降り立つには、なかなか骨が折れる作業だった。
この星に降りてから随分と体力を温存し、回復をした今は、あのように幻獣界に現われて、みじめな生き物を茶化すことも出来るようになって、彼の体は完全に復活をした。
たとえ、どんなにバハムートの力が大きくとも、その力を切り捨てている「あの」バハムートであれば、自分も太刀打ちは出来る。そうダークバハムートは思っていた。
(それに、こちらにはタイダリアサンもいることだしな。あの、阿呆のリヴァイアサンなどという幻獣とは、まったく違う)
笑わせてくれる。リヴァイアサンなど。なんと感傷的な話だ。ダークバハムートは「はは」と人間のように声をあげた。
そもそもリヴァイアサンはタイダリアサンと対を為す竜であり、幻獣などという、彼の気に触るあんな生き物ではなかった。
バハムート−サズ−が唯一尊敬をしていた竜。それがリヴァイアサンだ。
自らが作り出した幻獣を束ねる長に、その竜の姿を映すなど、あまりにも感傷的で、まったく、あのサズがどうかしたのかとすら思える話だ・・・ダークバハムートはひとしきり笑って、ごろりと横たわった。
ひんやりとした土の感触。
彼が今から戻る洞窟の奥も、とても冷たい。
あの暗く深い深い闇の奥に慣れてしまった今では、どんな場所でも快適に過ごせる。
(なんだかんだいって、あれだけの間、白竜もが生きていられたのは、封印されていたおかげといえばおかげなのかもしれぬな・・・いざ封印が解ければ、やはりあいつは弱い)
月の地下渓谷には、他にもプレイグといった魔物が同じように宝を守っていたが、自分達竜族以外の魔物がどうなったのかは彼にはまったく興味がなかった。
しょうがなく白竜を連れては来たが、ミールストームという能力を持つ以外はまったくもってあの竜は役に立たない。ダークバハムートはうんざりしつつ、自分と共にこの地に下りてきた二匹について考えていた。
が、その物思いを遮るように、突如緑の髪の少女の顔が、ぽっと脳裏に浮かぶ。
「どこかで見たことがあると思ったら・・・ふふ」
俺を解放してくれた、恩人ご一行様じゃあないか。
楽しそうに喉を鳴らして、ダークバハムートは笑った。
まったく、なんという皮肉だろう。
あの少女とその仲間が彼を解放し、そして、そのおかげでこうやってバハムートと対峙出来るようになったなんて。
ダークバハムートが傷つけた、あの少女の甲の傷を見た時の、バハムートの顔。
何もかもがおもしろかった、とダークバハムートは思う。
(しかし、あの少女・・・もっと、どこかで出会っている気がする・・・)
まさかな。
頭上で小鳥の羽ばたきの音が聞こえる。
このまま帰って、あの鬱陶しい雌竜の泣き言を聞くのは面倒だし、タイダリアサンのあの雌竜を侮蔑するような眼差しにいちいち口を挟むのも面倒だ。
ダークバハムートは瞳を閉じた。あっという間に無防備に、とても薄くてとても短いわずかな睡眠に入っていった。


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